狼に育てられた少女という実話があります。幼児期に言語教育などを受けなかった少女はどうなったのでしょうか?この事例は、幼児期の早期教育は本当に効果があるのか?という疑問に答えを与えてくれます。
狼に育てられた少女はどうなったのか?
四足歩行で歩き、夜に遠吠えをする少女
脳医学界では有名な話です。遡ること1920年の出来事です。インドのある森で、四足歩行で夜になると遠吠えをする2人の姉妹が保護されました。2歳と8歳くらいの少女でした。アマラとカマラと名付けられました。マスコミは、狼に育てられた少女として大々的に報じました。
近郊の村に住む牧師が2人を引き取って、二足歩行を教え、言語教育を施しましたが、妹のアマラは早死にしてしまいました。残った姉のカマラは17歳まで生存しましたが、言葉は数十の単語しか話すことができないまま生涯を閉じました。
科学的な調査分析が行われる前に死亡してしまったので、正確な証明は困難でしたが、人間が言葉を身に付けるのに適した3歳くらいまでの時期、すなわち「感受性期」を過ぎてしまうと、言語を身に付けるのは困難だという仮説が立てられました。
聴覚に障害のある人の調査でわかったこと
先天的に聴覚に障害のある人の場合、幼児期には周囲から気づかれずに、場合によっては思春期頃まで手話を習わないまま過ごしてしまうことがあります。これについては、研究がなされているのですが、生まれてからすぐに手話を習った人に比べて、より後から手話を習った人は、構文能力が劣るという調査結果が出ています。
構文能力は言語能力のすべてではないのですが、この研究からも、「感受性期」を過ぎると、構文能力を身に付けるのが困難になるということが判明しています。その後のさらなる研究によって、今では、言語能力の中でも、語彙取得能力や発音の聞き分け能力など、細かい能力別に「感受性期」の有無や時期が若干、異なることがわかっています。
ちなみに、「感受性期」とは、学習効率が最も高い時機を指し、その期間を逃すと後でも学習は可能であるが効率は低くなる期間のことです。
幼児期の早期教育は本当に効果があるのか?
絶対音感を身に付けるには早期教育が不可欠
狼に育てられた少女の事例は、やや極端に感じたかもしれません。また、聴覚に障害のある人の研究も身近に感じられないかもしれません。しかし、脳科学の研究は急速に進化を遂げているので、健常者の脳についても、かなり研究が進んでいます。
脳科学の分野では、fMRIやPETといった脳の働きを調べる機器が高度化したことにより、大きな飛躍を遂げています。それにより、赤ちゃんの脳の活動や活動メカニズムもかなり解明されてきました。
人間の脳は3歳くらまでに急激に発達することが判明したので、乳幼児期から教育を施す早期教育の必要性が注目されるようになりました。その代表として、よく事例にあげられるのが、「絶対音感」です。
「絶対音感」を身に付けるためには、2歳から6歳までの「感受性期」に教え込むことが不可欠であるということが明確になっています。
感受性期に外国語を教えると複数言語を話せるようになる
バイリンガルすなわち外国語と日本語など、複数の国の言葉を同レベルで話せる人についての研究もあります。通常、発音を聞き分けることができる「感受性期」は、生後6~12カ月くらいまでと言われています。
例えば、日本人の苦手なLとRの聞き分けですが、日本人でも、生後6~12カ月くらいまではLとRを聞き分ける能力を備えていることがわかっています。その後、日本語だけを聞き続けると、脳が必要ないと判断して、次第に聞き分けられなくなるのです。
もし、その「感受性期」に日本語と並んで英語を学習させることができれば、バイリンガルになり、いつまでもLとRを聞き分けられるようになります。
いずれにしても、言語能力という観点から見ても、感受性期である幼少期に学習させること、すなわち早期教育がいかに重要であるかということがわかります。両親は、生後すぐから、子供に対して、教育・学習を施さなければならないのです。
脳の成長には、さまざまな刺激を与えることが重要
近赤外線分光法を使った研究では、左右の前頭連合野が、親と触れ合ったり、友達と遊んだりするときに、活発に働くことがわかりました。海外で、赤ちゃんをずっと寝かせたままで育てていた孤児院の事例ですが、3歳になってもほとんどの子が歩けなかったという事実が報告されています。
つまり、脳を成長させるには、両親とのコミュニケーションを始めとして、できるだけ多くの、さまざまな刺激を与えることが不可欠なのです。親や友達などから受ける刺激により、神経や筋肉と、受けた情報の刺激を処理する脳が発達するのです。
それゆえ、幼児期から、読み、書き、計算をはじめとした、早期の教育や学習を施すことで、子供の脳に刺激を与え、確実に脳は発達します。必ずしも机上の学習だけでなく、両親と遊んだり、散歩をしたりする中での刺激も、とても重要であることがわかります。
ただし、1つだけ注意しておくべきことがあります。あまりにも過度な早期教育を施し過ぎると、子供の脳にストレスを与えて、情緒障害を引き起こす恐れがあることです。早期教育は無理強いすることなく、ゆとりをもって、楽しみながら行うようにするとよいでしょう。
まとめ
今回は、脳医学に伝えられる「狼に育てられた少女」というショッキングな実話から始めて、幼児に早期教育を施さないと、どんなに大変なことになるかということについてお話させていただきました。
言語を例に取れば、赤ちゃんは生まれたときは、すべての言語の音声を聞き分ける能力を持っていることが判明しています。ところが、例えば日本語だけを聞かせて育てていると、英語の音声を聞き分ける能力は退化してしまいます。
誕生直後から英語の音声も聞かせておいて、早期教育をすると、楽に英語をマスターすることが可能になります。これは、ごくわかりやすい一例ですが、子供には無理のない範囲内で、できる限り早期教育をしてあげることが、親の務めだと思います。
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